生命現象を分子レベルで明らかにする際には,対象とする分子の種類とともに働く場所をしらべることが重要です.これを調べることができる技術「質量分析法」の発展により,目に見える生命現象の陰で働く分子を知ることができるようになってきました.
この研究では,ビオラの花びらにある青色の模様できるメカニズムを明らかにすることを目的にしました.ところが,花びらをそのまま抽出してしまうと模様と対応する分子を決めることができなくなります.そこで,花びらに髪の毛より細いレーザーをあて,非常に狭い範囲にどのような分子がどれくらい存在するかを調べるイメージング質量分析法や,一つの細胞に微小な針を刺して中身を吸い上げて分析する一細胞質量分析法を活用して花びらの青い場所に含まれる分子をしらべました.その結果,アントシアニン色素として知られる赤紫色のビオラニンと無色のフラボノール類が,ある割合で共存することで青色に見えるco-pigmentationと呼ばれる現象で色が作られていることが分かりました.そして,ビオラの花びらにある青色の模様はアントシアニンやフラボノールの割合が場所によって異なることで作られていることを明らかにしました.
イメージング質量分析により算出された割合で色素(ビオラニン)と無色のフラボノールを混合すると青色になることを試験管内で再現できた.
一細胞質量分析のプロセス.花びらの青色色素細胞に顕微鏡下で針を刺して内容物を吸引している様子.
参考文献
Sugahara, K., Kitao, K., Watanabe, T., Yamagaki, T. “Imaging mass spectrometry analysis of flavonoids in blue viola petals and their enclosure effects on violanin during color expression.” Analytical Chemistry 91, 896–902 (2019).