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2025.02.21 研究業績

白石研究員らが「GPCRの機能進化による新規ペプチド認識能獲得機構」を解明しました。

GPCRの機能進化による新規ペプチド認識能獲得機構の解明

【発表論文】
Evolutionary scenarios for the specific recognition of nonhomologous endogenous peptides by G protein–coupled receptor paralogs
J. Biol. Chem. 301(2):108125 (2025).
白石 慧、和田 明澄、佐竹 炎
 (公益財団法人サントリー生命科学財団 生物有機科学研究所)
Open access DOI: 10.1016/j.jbc.2024.108125

【研究の背景】
ペプチドホルモンや神経ペプチドは、動物のさまざまな重要な生体機能を調節する役割を担っています。これらのペプチドの多くは、それぞれに特異的なGタンパク共役型受容体(GPCR)を介してシグナルを伝達しています。

従来、ペプチドとGPCRには、「構造が似たペプチドは、配列が似たGPCRと相互作用する」という法則があると考えられてきました。しかし近年、神経ペプチドの一種であるSubstance P(SP)は、それまで知られていた受容体であるNK1Rだけでなく、進化的に遠縁な受容体MRGPRX2をも活性化することが報告されました。

さらに、MRGPRX2と配列が類似したGPCRであるMRGPRX1はSPと相互作用せず、代わりにSPとは全く異なる配列を持つBAM8-22と相互作用することが明らかになりました(上図)。これらの結果は、ペプチドとGPCRの相互作用が単純な配列の類似性で決まるのではなく、未知の法則によって決まることを示唆しています。

一方、これまで我々はペプチドと単純な配列の類似性に依存せずにGPCRの相互作用を予測するための機械学習手法「PD-incorporated SVM」を開発してきました。PD-incorporated SVMの予測精度は高く、実際に予測を基に、12の新たなペプチド-GPCR間の相互作用を明らかにできました(Shirishi A. et al. 2019)。

【研究の内容】
本研究では、相互作用の有無を決定づける因子となるアミノ酸残基を検出することを目的とし、PD-incorporated SVMの判別式を元に、相互作用予測のための新たな指標としてInteraction Determinant Likelihood (IDL)スコアを定義しました。IDLスコアは、ペプチドと受容体のアミノ酸残基ペアの相互作用への寄与を数値化します。ここでIDLスコアが高い残基ペアは相互作用が起こる方向に寄与すると解釈できます。

このIDLスコアをSP/BAM8-22とMRGPRX1/MRGPRX2 の各組み合わせに対して算出し、相互作用するペプチド-GPCRペアにおいて、特異的にIDLスコアが高くなるアミノ酸残基を探索しました。つまり、SPを例にとると、MRGPRX2とSPの組み合わせではIDLスコアが高く、MRGPRX1とSPの組み合わせではIDLスコアが低いアミノ酸残基を探索しました(下図)。この結果、SPのMRGPRX1/2に対する特異性を決定するアミノ酸残基(特異性決定残基)候補3か所と、BAM8-22の特異性決定残基候補2か所を推定しました。

次に、推定したアミノ酸残基をMRGPRX1/2で入れ替え、変異タンパク質の相互作用の有無が逆転するかを検証しました(Determinant Candidate Exchange:DCE変異体実験)。その結果、DCE変異体実験によりSPの特異性決定残基としてF3.24、G4.61を、BAM8-22の特異性決定残基としてL1.35を特定できました。

さらに、特異性決定残基と分子進化系統樹解析を組み合わせた結果、①MRGPRX2とNK1Rは配列相同性を持たないにもかかわらず、SPと相互作用する際に同様の認識機構を利用していること、②MRGPRX2は約7,300万年前、霊長類・ヒヨケザル・ツパイを含む真主獣大目の共通祖先において、この遺伝子を獲得した時点でSPと相互作用する能力を持っていたこと、③MRGPRX1は約3,300万年前に進化的に分岐し、BAM8-22との相互作用を獲得したものの、オナガザル亜科ではBAM8-22と相互作用するのに必要なL1.35を持たず、BAM8-22認識能を失ったことが明らになりました。

本研究により、「GPCRが進化の過程でどのようにして非相同ペプチドとの特異的相互作用を獲得したのか」という未解明の問題に対し、分子レベルでの解析手法を確立し、進化的な特異性決定機構に関する知見を得ることが可能になりました。

本研究は、JSPS科研費24K09428および22H02658の助成を受けて実施された。

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