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2024.01.30 研究業績

新規種特異的51アミノ酸残基ペプチド(PEP51)の発見

【発表論文】

Characterization of a novel species-specific 51-amino acid peptide, PEP51, as a caspase-3/7 activator in ovarian follicles of the ascidian, Ciona intestinalis Type A
 Front. Endocrinol. 14:1260600 (2023).

酒井 翼1、山本 竜也1、渡辺 健宏1保住 暁子2, 白石 慧1、大杉 知裕1、松原 伸1、川田 剛士1、笹倉 靖徳2、 高橋 俊雄1、佐竹 炎1
 1.公益財団法人サントリー生命科学財団 生物有機科学研究所
 2.筑波大学 下田臨海実験センター

Open access DOI: 10.3389/fendo.2023.1260600


【研究の背景】
 卵原細胞を受精可能な卵細胞にまで発育させる卵形成は、動物において重要な生体機能の一つである。これまでにサントリー生有研では、脊椎動物に最も近縁なホヤの卵成長・成熟、排卵において種々の神経ペプチドが制御する分子機構を明らかにし、脊索動物門における卵形成の原点と種特異性を浮き彫りにしてきた。カタユウレイボヤ (Ciona intestinalis type A) の卵巣内において、卵母細胞は濾胞細胞およびテスト細胞(脊椎動物卵胞の顆粒膜細胞に相当)に囲まれた卵胞として、前卵黄形成期 (stage I)、卵黄形成期 (stage II)、卵黄形成終了期 (stage III)、成熟卵 (stage IV) へと至るが、卵胞閉鎖や優良卵選抜の有無、そして脊椎動物で見出されている神経系由来ではない卵巣因子(ペプチド等)の存在や機能は不明となっていた。

 

【研究の内容】
我々はカタユウレイボヤ卵胞のRNA-seqを実施し、stage III卵胞で強く発現するRNAの一つに51アミノ酸残基から成るペプチド配列のコーディング領域を見出した。本ペプチド配列をBLAST検索したところ、いかなる動物種においても相同性配列は検出されず、カタユウレイボヤ特異的であることが示された。

 次に、本ペプチドの局在を調べるため、抗PEP51抗体を作製し免疫染色を行った結果、early stage III卵胞のテスト細胞特異的な免疫陽性反応を見出した。続いて、当期卵胞からFACSにより分取したPEP51免疫陽性 (PEP51(+)) テスト細胞から MALDI-TOF 質量分析(MS) でPEP51の推定分子量と一致する質量分析値m/z 5897を検出、そして、early stage III卵胞抽出物のSDS-PAGE 6 kDaバンドからnano-LC MS/MS解析によりPEP51配列を同定した。興味深いことに、免疫電顕解析では、early stage III卵胞で複数形成されるテスト細胞集団において、1-2個のPEP51(-)テスト細胞とそれらを囲む多数のPEP51(+)テスト細胞が観察され、PEP51(+)テスト細胞にはアポトーシス小体や核クロマチン凝縮といったアポトーシス様形態が見出された。さらに、early stage IIIからlate stage IIIへの移行に伴って増大する卵母細胞を一層に囲むテスト細胞はPEP51非発現であることが判明した。また、early stage III卵胞のテスト細胞は分泌顆粒を持たないことから、PEP51は細胞内で機能する細胞内因子であることが示唆された。 これらの結果を受けて、PEP51(+)細胞におけるアポトーシスを検証するため、抗PEP51抗体と活性化カスパーゼ-3/7検出プローブを用いたホールマウント卵胞解析を実施し、PEP51と活性化カスパーゼ-3/7の共局在がearly stage III卵胞のテスト細胞のみに確認され、他ステージ卵胞のテスト細胞では確認されなかった。そして、PEP51とカスパーゼ-3/7の機能的関係を明らかにするため、COS-7細胞と HEK293MSR細胞にPep51遺伝子を発現させたところ、両発現系でカスパーゼ-3/7の活性化が検出された。これらの実験により、PEP51はカタユウレイボヤのearly stage III卵胞でカスパーゼ-3/7を活性化してテスト細胞のアポトーシス誘導を行う細胞内因子であることが判明した(図1)。

 これまで細胞内ペプチドによるカスパーゼ活性化は他生物においても報告が無く、本研究で同定したPEP51の特異性が際立つ。近年、死にゆく細胞が積極的に因子を産生・放出し、周辺細胞の増殖を制御する「代償性増殖」が様々な分野で注目されており、今回発見したPEP51の機能と代償性増殖との関連がホヤ卵胞成長制御機構においても示唆される。

図1 カタユウレイボヤ卵胞成長における卵巣因子PEP51の役割

 

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