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2023.06.21 研究業績

オルガノイド研究に向けてのマウスクリプト及び腸幹細胞からの腸オルガノイド作製技術

Journal of Visualized Experimentsに掲載
(令和5年4月7日)

 小腸は、絨毛と陰窩(クリプト)からなる組織構造をしており、単一の腸幹細胞から絶えず多様な腸上皮細胞が生み出されていることによって、数日ごとに細胞の新陳代謝を繰り返しています。今回、当研究所高瀬悠太研究員、高橋俊雄主幹研究員及び京都大学の藤島和人特定助教(現大阪医科薬科大学助教)との共同で、単一の腸幹細胞及びクリプトを分離して培養する技術‟腸オルガノイド培養系”を、ビデオメソッドジャーナルのJournal of Visualized Experiments(JoVE)誌で紹介しました。

【発表論文】
“The 3D culturing of organoids from murine intestinal crypts and a single stem cell for organoid research”
Journal of Visualized Experiments 2023, 194, e65219.
Open access DOI: 10.3791/65219
高瀬悠太 (サントリー生命科学財団), 藤島和人 (当時京都大学), 高橋俊雄 (サントリー生命科学財団)

【研究の背景】
 クリプト底部には腸幹細胞があり、腸幹細胞が分化の決定を受けると、未分化細胞を経て、主に5種類の成熟した腸上皮細胞に分化します(図1)。近年、マウスにおいて腸幹細胞が同定されるとともに、培養技術が確立され、腸幹細胞の理解は飛躍的に深まってきています。そこで、高瀬悠太研究員と高橋俊雄主幹研究員は、単一の腸幹細胞及びクリプトの分離方法を工夫して、効率的に腸オルガノイドを作製する技術の開発に着手しました。

図 1 小腸の組織構造

腸上皮細胞は腸管の内側を覆っており、摂取した食物の消化・吸収、腸内細菌に対するバリア機能などの役割を担っている細胞である。これらの機能維持のために、腸上皮細胞は、常に陰窩(クリプト)に存在する腸幹細胞から新たに分化した細胞へと置き換わっている。

【研究の内容】
 マウスクリプトの分離過程で、EDTA処理後の小腸組織を激しく振ることにより、クリプトを分離し、その後の処理により、効率よく回収することができました(図2A-C)。そして、マウスクリプトをEGF、Noggin、とともにマトリゲル中で3D培養(オルガノイド培養)することで、長期間の培養に成功しました(図2D,E)。

図 2 腸オルガノイド培養系

(A) EDTA処理後のクリプト。(B) 最終精製のクリプト。(C) マトリゲルに包埋されたクリプト。(D) 3D培養オルガノイド。(E) 腸オルガノイドの成長過程。

 次に、EphB2抗体を用いたFACS解析により、単一の腸幹細胞(EphB2強陽性細胞)を分離し、その培養を行ったところ、単一腸幹細胞培養からでも腸オルガノイド成長が可能であることが確認できました(図3)。本培養法により、腸オルガノイド培養は純粋な腸上皮細胞を培養しており、腸幹細胞は自己複製と同時に自ら微小環境(ニッチ)となる成熟した腸上皮細胞を産生していることがわかりました。

図 3 単一腸幹細胞からの腸オルガノイドの成長過程

【今後の展望】
 腸オルガノイド培養システムは、再生医療、疾患モデリング、及び薬物スクリーニングにとって最先端のツールであります。しかしながら、3D培養であるマトリゲルに包埋された状態にある腸オルガノイドは、外界と接するべき絨毛側が内側に存在するため、従来の単層の腸上皮を用いた機能解析に適用することが難しい点があります。そこで、発展型として、腸オルガノイド由来2D単層培養系を樹立することを今後の課題と位置付けております。

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